<インドネシア、ネパール、フランス......世界各地の抗議運動で、漫画『ワンピース』に登場する海賊旗が若者たちのシンボルとして掲げられている>
2025年9月、ネパールのカトマンズでは、SNSへのアクセス遮断を命じた政府に若者たちの怒りが爆発、壮麗な政府複合施設「シンハ・ダルバール」に炎が上がった時も、この旗が翻っていた。
およそ30年前に生まれたこの旗は、インドネシアやネパール、フィリピン、フランスといった国々で、若者主導の抗議運動の象徴へと変貌を遂げている。
メディアと民主主義を専門とする筆者から見ると、ワンピースの海賊旗(通称ジョリー・ロジャー)が漫画のページから抗議の現場に広がったのは、Z世代がポップカルチャーを使って新しい抗議の言葉を生み出していることの証左だ。
ファンにとって、ワンピースの旗は単なる装飾ではなく、反抗と不屈の象徴だ。ルフィが「悪魔の実」を食べて体を自在に伸ばせるようになる設定は、限界を超えるレジリエンス(回復力)のメタファーとして受け止められ、腐敗や不平等、権力の横暴のなかで生きる若者たちの共感を呼んでいる。
抗議者たちがこの旗を掲げるのは、単に人気作品の見た目や雰囲気を借りるためだけではない。数百万人の人々に通じるワンピースの「抵抗の物語」を引用しつつ抗議している。
ワンピースの旗はこの数年のデモで目立つようになった。2023年にはニューヨークでの親パレスチナデモでも掲げられていた。
だが、本格的に政治的な意味を帯び始めたのは、2025年8月のインドネシアだ。国会議員に高額の住宅手当が支給されているという報道がきっかけで、格差拡大や生活苦に苦しむ若者たちは、ワンピースの旗を掲げて立ち上がった。
インドネシアはちょうど独立記念日を迎えたところで、政府が国旗を掲げるよう促していたのに対し、若者たちはあえてワンピースを掲げて抗議の声を上げ、象徴としての対比が際立った。
簡単に国境を越える理由
ワンピースの海賊旗があっという間に国境を越えた背景には、Z世代のデジタルな生い立ちがある。彼らは完全にネット環境の中で育った初めての世代であり、ミーム(ネット上のネタ)やアニメ、世界的なエンタメ作品に常に触れてきた。
彼らの政治表現は、組織や団体に頼らず、ネット上のつながりを通じて共有される。
ワンピースの旗はなぜ、Z世代の抵抗のシンボルとして世界に広がったのか
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